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最高裁判所第二小法廷 平成11年(受)880号 判決

上告人 井手渉

井手政子

右両名訴訟代理人弁護士 金子宰慶

被上告人 安藤昌由

尾花繁

右両名訴訟代理人弁護士 田中登

主文

一  原判決中上告人らに関する部分を次のとおり変更する。

第一審判決中上告人らに関する部分を次のとおり変更する。

1  被上告人らは、上告人井手渉に対し、連帯して、一二八六万八三九一円及びうち一二〇〇万七三三七円に対する平成二年一一月一〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  被上告人らは、上告人井手政子に対し、連帯して、一一七一万二三七一円及びうち一〇八五万一三一七円に対する平成二年一一月一〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

3  上告人らのその余の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟の総費用はこれを四分し、その三を上告人らの、その余を被上告人らの負担とする。

理由

上告代理人金子宰慶、同野崎綾子の上告受理申立て理由(ただし、排除されたものを除く。)について

一  本件は、平成二年一一月一〇日に発生した交通事故で死亡した井手陽子の相続人(両親)である上告人らが、加害車両の運転者である被上告人安藤に対し民法七〇九条に基づき、同車両の保有車である同尾花に対し自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」という。)三条又は民法七一五条一項に基づき、損害賠償を請求する訴訟である。上告人らの請求の趣旨は、被上告人らに対し、連帯して、上告人渉に対し五六二四万三二七〇円、同政子に対し四四九七万一八七八円及びこれらに対する平成二年一一月一〇日から支払済みまで年五分の割合による金員の支払を求めるものである。

上告人らは、自賠法に基づく保険金として合計二五一〇万六二四五円の支払を既に受けているところ、上告人らが右保険金によりてん補された損害額に対する本件事故発生日である平成二年一一月一〇日から右保険金支払日である同四年三月二五日までの年五分の割合による遅延損害金のうち一七二万二一〇九円(各その半額)の支払を本件において請求していることは、記録上明らかである。

二  原審は、被上告人らの損害賠償義務を認め、上告人渉及び同政子の損害額(陽子の損害を相続した分と上告人ら固有の損害の合計)をそれぞれ二三五六万〇四五九円、二二四〇万四四三九円と認定し、上告人らの右各損害額から右保険金によるてん補額の半額である一二五五万三一二二円を控除し、これに弁護士費用各一〇〇万円を加え、被上告人らに対し、連帯して、上告人渉に対し一二〇〇万七三三七円、同政子に対し一〇八五万一三一七円及びこれらに対する平成二年一一月一〇日から支払済みまで年五分の割合による金員の支払を命じ、上告人らのその余の請求を棄却した。

三  しかしながら、原審の右判断のうち、自賠法に基づく保険金によりてん補された損害額に対する本件事故発生日から保険金支払日までの遅延損害金請求を棄却した部分は、是認することができない。その理由は、次のとおりである。

不法行為に基づく損害賠償債務は、損害の発生と同時に、何らの催告を要することなく、遅滞に陥るものであって(最高裁昭和三四年(オ)第一一七号同三七年九月四日第三小法廷判決・民集一六巻九号一八三四頁)、後に自賠法に基づく保険金の支払によって元本債務に相当する損害がてん補されたとしても、右てん補された損害金の支払債務に対する損害発生日である事故の日から右支払日までの遅延損害金は既に発生しているのであるから、右遅延損害金の請求が制限される理由はない。

したがって、本件においては、自賠法に基づく保険金によりてん補された損害額に対する本件事故発生日から右保険金支払日までの遅延損害金請求は当然に認容されるべきであり、これを棄却した原審の判断には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は理由があり、原判決は右請求に係る部分につき破棄を免れない。

そうすると、上告人らの請求は、原審が認容したところに加えて、右保険金によりてん補された損害額各一二五五万三一二二円に対する本件事故発生日である平成二年一一月一〇日から右保険金支払日である同四年三月二五日までの民法所定の年五分の割合による遅延損害金のうち上告人らが請求する各八六万一〇五四円(円未満切り捨て)の支払を求める限度で認容すべきである。したがって、原判決中上告人らに関する部分を主文第一項のとおり変更するのが相当である。よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 福田博 裁判官 河合伸一 裁判官 北川弘治 裁判官 亀山継夫 裁判官 梶谷玄)

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